『徳本翁十九方』27種類の生薬

医聖 永田徳本先生の著書に『徳本翁十九方』があります。その中に記載されている17種類の生薬について、長野県薬草指導員の武井末子先生による解説でご紹介します。
尚、こちらは随時更新をしております。

一、桂枝(桂皮) ケイヒ(シナモン)  クスノキ科 ニッケイ属

keihi-1.jpg 肉桂(ニッケイ)の木の皮から作られる。シンナムアルデヒド、オイゲノールなど。(矯味矯臭薬・薬剤の不快な臭気を消す目的の薬。白糖・乳糖・橙皮シロップ・バラ油の類)
 中国、インドシナ原産といわれるクスノキ科の常緑高木。暖地に栽培(沖縄などに野生化しているとするが、真の野生かどうかは疑問との説あり。)葉の裏面、花序は絹毛に覆われている。
 他にヤブニッケイ、マルバニッケイ、シバニッケイなどが有り、ニッケイと同じように種子から香油をとり、葉や樹皮は薬用や香料にされる。体を温める作用(温熱の作用)、発汗、発散作用、健胃作用を持つ。keihi-2.jpg

 


 

二、甘草・カンゾウ(主根、横先に伸びる茎)  マメ科

kanzou-1.jpg 中国からヨーロッパ南部にかけて分布する。日本でも古くから栽培されていたようだが少数のため、近年、需要観点から栽培を推奨されている。走根(横に伸びる根)は褐色の皮があり中は淡い黄色の細い棒状。アマキ、アマクサと呼ばれます。他の薬の効き目を補うなど、漢方処方に配合される重要な生薬の一種です。(薬局等で販売)
 甘味は特異であり、しょ糖の約50倍の甘さがあり甘味用として醤油、菓子、煙草など広く用いられます。また、甘草の成分はトリテルペン配糖体として含まれ、なかでもグリチルリチンが砂糖の200倍以上もあります。
 甘草は息苦しさの防止、解毒、喉の痛み止め、去痰、神経痛の鎮痛などに効き目を発揮します。漢方でも緩和、消炎、解毒薬として、のどの痛みや消化器のかいよう、食中毒などに用います。
kanzou-2.jpg 甘草をハチミツとともに焦がしたものを しゃ甘草と呼びます。しゃ甘草は虚弱体質に用い、また、食欲不振、腹痛、咳、発熱、下痢などに応用され、ほとんど漢方処方に配合されます。他に、副腎皮質ホルモン,抗アレルギー作用など多くの薬理作用が認められています。しかし、長期間大量に連用(複連用)すると脱力感、四肢のけいれんなどの副作用が生じるので、注意すべきです。単味では去痰薬として利用。


 

三、大棗 ・タイソウ(ナツメ)  クロウメモドキ科 

natsume.jpg ヨーロッパ東南部、アジア西南部原産。中国に自生、日本には古く渡来し「喜式」(えんぎしき)・(平安初期)に出てくる食用や薬用に供していたことがうかがえます。多く栽培されていますが、実が小型です。中国産などは日本産の倍ほどの大粒の実で、大粒ほど良品とされます。できるだけ大粒にするには,冬季に剪定をし、根元を刺激するなどの処置をすれば、大型の果実がえられます。
 果実は生で食べたり、煮たりしますが、日干しで乾燥してから、蒸して再び天日干しにしたものを生薬の大棗(タイソウ)といいます。(虫害を受けやすいので湿気に注意) 食用にする干しナツメは夜露にあててから乾燥させると良いでしょう。これは、紅棗(コウソウ)とよび、これに対し生薬の大棗は、黒棗(コクソウ)と言います。
 漢方でよく使われる生薬のひとつで、緩和、強壮、利尿、鎮痙(ちんけい)、鎮静、緩下剤、などに応用されます。
 特に、緊張による痛みや急迫症状、知覚過敏などの症状を緩和し、他の薬物の作用をおだやかにするため、他の生薬と配合した漢方薬はたくさんあります。処方中に、神経の興奮をしずめ、不眠にも有効。
 滋養・強壮には大棗酒が有効です。大棗は300g、こまかく切ってホワイトリカー1.8L、グラニュー糖150g、を冷暗所に2ヶ月以上置いてから、布でこして1日30mlを限度に服用。

四、生姜(しょうが)  ショウガ科

syouga1.jpg 古く中国から渡ってきたもので、天平時代の古文書にも登場します。日本では暖地栽培ですが、近年は諏訪地方の家庭菜園などでも栽培されています。
 利用法は、香辛料、温性の食品など、多様に生活の中に結びついたものです。抗けいれん作用、でんぷんの消化作用、体内の水分の代謝を良くし、肝臓の働きを良くします。また、唾液、胃液の分泌を促進して消化を助け、腹にたまったガスを追い出すので、芳香性健胃、利胆、鎮咳、去痰剤となります。
 乾姜は生姜よりも熱性が強い辛熱の性質があるとされるので、胃腸の冷えた障害には乾姜を使う場合が多い。
 ひねショウガは、霜が降りる直前まで畑においてから掘り下げると、根茎は充実し、香気、辛味が最高となります。syouga2.gif
 

 

 

 

五、芍薬・シャクヤク(根)  クスノキ科

 中国東北地区、朝鮮半島 シベリア地方原産、日本では薬用として、室町時代には栽培されていた記録があります。「和漢三才図会」(わかんさんさいずえ)には500種を越える品種があると伝えられています。
 ヨーロッパにはケンペル(ドイツの外科医・博物学者。オランダ船船医として長崎出島に渡来)によって日本から伝えられています。ボタン属の学名パエオニアは、ギリシャ神話中の医学の神パエオンの名からきています。
 シャクヤクは、漢方の要薬であって、ことに婦人薬として利用度の高いもの、血液の鬱滞を除き血行を良くする。また、「神農本草経」には、腹痛、知覚異常を取り除き、刺すような痛み、また発作性の傷みを取り、利尿の効き目、神経の安定に良いと書かれています。皮膚のかさつき、顔色不良、頭がふらつき、目がかさむ、目の充血、息切れ、イライラして怒りやすい、などに用いる処方に配合されます。芍薬甘草湯が多く使用されています。
 野生のヤシマシャクヤク、ベニバナヤマシャクヤクともに薬用にされたことがありますが、現在は、環境省、長野県ともに絶滅危惧種になっています。

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